2018年11月26日月曜日

芋を焼く


えらい人から「おまえ、子どもたち集めて何か遊びをやれ」と命ぜられたのは昨年夏のことだ。そこで、近所の公園でデイキャンプのような催しを企画した。そこそこの人数が集まり、許可を得て焚き火を起こし、飯ごうでご飯を炊き、わたしがスズキサトル君の協力を得て作ったカレーも好評でまあまあ賑やかな地区行事だった。スズキサトル君というのはわたしの山友の美術家で、イラストレータとして活躍する傍らブッシュクラフターとしての評価も高い男だ。

デイキャンプの件で、言われた通りにやったからもうこれで十分だろうと放っておいたら、「今年もやれ」とうるさい。忙しくて山にも行けぬ身、行事どころではない。そこでなるべく手の掛からぬ内容の「焼き芋会」で逃げ切ろうと企てたのだった。

うちの子どもたちのおやつにと、ダッヂオーブンで芋を焼くことには慣れている。同じ要領でやれば、炭火に2時間放置で焼き芋のごときものが出来上がる。ところが子どもたちが何十人も集まると聞いて、それではダッヂオーブンが足りない。あのくっそ重い鉄鍋を何台かき集めれば良いのか、途方に暮れた。暮れたままでは事が進まないので、手のかからぬ焼き芋の作り方を調べた。調べた結果、どうやら石焼き芋に分がある。町会の倉庫の古鍋などで道具は賄えるだろう。手順も一度覚えてしまえば、今後は地区行事の度に石焼き芋をやれば良い。






わたしが棲むまちの片隅に、こんな丘と広葉樹の森が広がっている。この森と広場を使って、野遊び会が始まった。





急斜面にクライミングロープやつなぎ合わせたシュリンゲなどを垂らし巡らせてある。ふだんは高学年の男の子たちぐらいしか遊べない場所で、小さな子どもも女の子たちも、大騒ぎしながら昇り降りしていた。





大きな古鍋をふたつも持ち出して炭火に掛けた。鍋には小石を敷き、アルミフォイルでくるんだ芋を焼いた。ねっとりと、しっとりと、甘く香ばしい石焼き芋は、秋空のもとに集まってくれた子どもたちの胃袋に消えて行った。





うまい石焼き芋を焼くために、実は数回にわたる実験が在った。







秋の深まりは焼き芋会が近づいたことをわたしに悟らせる。じりじりとした焦燥感に包まれて、どうしたら美味い焼き芋が出来るのだろう。週末の貴重な時間を使って、試行錯誤が始まった。






幾度も売り場に足を運んで、様々な品種の芋を手に入れた。






石焼き芋用の小石はホームセンターのエクステリアコーナーで買い求めた。




ホクホク、の焼き芋なら簡単に焼ける。わたしが求めているのはこれじゃない。黄金色の、しっとりとした甘い焼き芋である。





鍋の種類や熱源を変えてみたり。アルミフォイルを使用したりしなかったり。新聞紙に包んだり、むき出しだったり。







 一方、ガスが良いのかアルミ鍋が悪いのか。


 

加熱時間は適正か、中火で良いのか弱火が好ましいのか。芋の品種の相性もあるだろう。




四回の週末が、石焼き芋の実験に費やされた。書き換えると、四回山にいけたはずなのに、一度も行けなかったということだ。





そして一定の条件を満たした場合に、黄金色の美味い石焼き芋が完成することが解った。その法則は、わたしがここに書くよりも、世の中に出回っている情報の方がアテになりそうだ。


野遊びに続いた焼き芋会のあと、スズキサトル師匠が子どもたちにブーメランづくりを教えてくれた。バルサのブーメランは、澄んだ秋空に吸い込まれるように高く舞った。



焼き芋の火の番に来てくれた倅も、空高く舞うブーメランを追うように、何時間も空を眺めて過ごした。