この夏に始めたプーッコづくりが、手のリハビリという言い訳を必要としなくなってきた。それは充分に愉しい、いや、限りなく愉しい時間なのだ。前項で書いた、道具を作るというクリエイティブな体験が途切れることなく続いている。
気を良くしてせがれの16歳の誕生日に一本を贈った。そして次に作った一本も、彼の手に渡った。そろそろ自分用の一本が欲しい。そこでせがれには「次のプーッコは父のものだ。君がどんなに望んでも、決して君のものにはならないだろう」と告げ、製作に着手する。
構想とパーツ製作は早い段階から準備されていて、せがれ用のを作る以前に、原型を顕わにしていた。上の写真の最下段の物体である。ラウリの炭素鋼ブレード69ミリを、欅の芯材、黒いレザー、そしていくつかの装飾的な要素で仕立ててみる。
グルーイング前の仮組みの様子。レザーの枚数、真鍮を見せる位置、赤いレザーの配置、あるいは手順や工程のそれぞれを見直し、つぶさに再検証してみる。
つまりは、試作品を数本作ってみて得られた自分なりの手応え、見えてきた課題、反省点を踏まえての製作となる。それなりの物に仕上げたい。
とはいえ分からないことが多い。エポキシの混ぜ方、塗布量は間違っていないだろうか。治具で締め付ける力は適正だろうか。そしてタングのエンドのカシメが問題だ。ハンマリングの力加減、あるいはエンドプレートのフィッティングも解らない。海外の動画では末端にネジ山を切ってナットで締めている場面があった。その方が良いのだろうか。まだ手探りの連続である。
硬化が完了して、ハンドルのプロファイルを確認する。この場合は主に外観上の要素で、真鍮の見え方、赤いレザーの効果、などである。サンダーでざっくり削って「面」を出してみると、思い描いていたハンドルの風貌を垣間見ることができた。大きなミスは犯していないようだ。
続いて、ハンドルのサイズを決める。天地左右を削り出し、握った感触を確かめる。もっと細く? バランスは大丈夫? 重心の位置はどこに定まるだろうか?
何度も何度も繰り返し確認する。四角いブロックのエッジが残されているが、何日も脳内で握り続けてきたハンドルである。削り出された瞬間に出会えばすぐ解るだろう。
ここで答えが出た。最終的には各面を0.5mm掘り下げたところにシェイプがある筈だ。
翌日、エッジを少しずつ落としながらアールに削り、シェイプを探し出していく。
握って確かめ、眺めて思案する。後戻りできない工程なので慎重さが要求される。特に積層レザーの部位は軟らかく、サンダーの当て方を誤ると削られてしまう。
うーん、ベルトサンダーが欲しい。曲線美を追及するなら当然の希求であろう。
あとわずかに凹凸をならしたら、その先は手作業となる。
サンドペーパーの#150、#240、#400と進めてきた。探ってきたハンドル・シェイプまで0.2mmぐらいには迫れたようだ。
手感を頼りに更なる磨きを掛ける。欅の芯材ならではの杢目も見えてきた。結果が見えてきた感触。山で例えるなら、明神岳南西稜でII峰の懸垂下降を終えた場面だ。残すは主峰への登り、でもその後の奥明神沢のコルへのクライムダウンが恐かった。
右上が「わたしのプーッコ」。ハンドル整形中ながら、それなりの完成度が得られたようだ。こっそり小声で話すように書いておきたいことがある。実はこのカットに、わたしが神様と崇めるpuukko職人であるthetopicalaのOsmoさんが「いいね!」をくれたのだ(すごいドヤ顔)。
ここから細部の仕上げ、レザーのシースづくり、そしてブレードの研ぎ上げを行う予定である。
この杢目。うっとりと眺めて飽きることがない。
血豆が物語るサンドペーパーとの格闘。
わたしのプーッコだ。ハンドルのエンドは、このまま残しておく。次回への課題となっているからだ。
わたしのpuukko作りにおいて最大の壁は情報の少なさ。日本語の情報はBush'n bladeの大泉さんが紹介してくれている以外には、ほぼ無い。そんな中で、上に書いたthetopicalaのOsmoさんの動画は英語のテロップで解りやすく、素晴らしい内容である(わたしが誤訳していることは別問題)。結局、最大の謎だったタングの末端のカシメについても学ぶことができたのだが、この一本には間に合わなかった。
後日談。安物のベルトサンダーを買った。手作業の削り、磨きではどうしても残してしまった微細な凹凸を丁寧に消していく。#1000で消したのち、ハンドの#2000で仕上げたら、実に滑らかな表面が得られた。アマニ油を塗り直しておく。さて、そろそろシースを作ってやらねば。