2019年7月14日日曜日

少年は荒野を目指す


16歳になる倅が、時おりわたしの道具たちをこっそり持ち出している。道具だけでなく、古いrockのアルバムや澁澤龍彦さんの本なども。これを一度も咎めたことはなく、むしろ勝手にやれよと心では促している。

北欧ナイフのプーッコをいじくり回していると、倅は側へ来てじっと眺めている。倅用のを作ってやろうと決めていたので、ブレードが届いた夜に選ばせた。



フィンランドから届いたブレードと、試作のプーッコ。梱包を解いていると倅が呟いた。ショップの人はスウェーデン系のフィンランド人か、と。新聞紙がスウェーデン語だという。わたしにはその区別がつかないので、「ほぇー」という反応しかできなかった。



ハンドルにはチンシャンと書かれた銘木の端材を選んだ。うん、良い選択だ。



いやぁ、硬い。ドリルの歯を二本折る羽目になった。





忘れないうちに治具を作っておく。




さてパーツを点検して仕上がりイメージを確認する。



そしてグルーイング。この工程で、木のブロック、牛革が4枚、真鍮の欠片がおなじく4枚、そして炭素鋼のブレードが接合される。エポキシを流し込んで塗りたくって、治具へとセットされる。プーッコが誕生する瞬間である。




一晩放置しておいた、生まれたばかりのプーッコを削りに掛ける。待てずに暗いうちから始め、朝飯の時刻にはもうプーッコの形状を成していた。夜明けにディスクグラインダーを鳴らすのは田舎暮らしとはいえご近所に申し訳ない。ヘレのブレードを試作で組んだやつが刃こぼれするまで働いてくれた。

サンドペーパーの180番から番手を上げて400番でやめた。手が悲鳴をあげている。



目覚めて書斎を覗きに来た倅にこれを見せると、信じられないと言う顔で受け取った。それはそうだ、君が昨日これを見たとき、ブロックに昆布巻きが刺さったような様子だったのだ。



惚れ惚れとした表情で自分用のプーッコを眺めている、もうすぐ16歳になる少年に、オヤジは特に言葉を掛けなかった。言わなくても伝わっただろう。荒野を目指せ。世界の果てまで行ってこい。

わたしは五木寛之さんの小説を読まなかった。若い頃に北欧やロシアを旅する機会も得られなかったが、いま、フィンランドを訪れたいという夢を抱いている。それもこれも、友人のスズキサトル師匠から北欧ナイフのことを教わったことが根っこにあるのだろう。


倅は、間違いなく、自分自身の荒野を目指すだろう。オヤジもまた、荒野を目指すのだ。



プーッコのふるさと、フィンランドには、わたしが神様と崇めるふたりのpuukko職人さんがいる。Bush'n Bladeの大泉さん。そしてthetopicalaのOsmoさん。いつか夢が叶うならフィンランドへ渡って、わたしが作ったハンドルを見て貰うのだ。誉めてもらえるのは遠いまぼろしとして、こんな素晴らしい手仕事の先生になってくれたお礼を言いたい。















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