2019年7月4日木曜日

Morakniv Classic 2/0ハンドル改造



ことし五月の連休を、怪我の回復に過ごした。その無為の時間を、なにか次の課題に繋げたいと考え、Puukkoのハンドルデザインをひとつのテーマに取り上げた。Puukko、プーッコとは北欧フィンランドでナイフという意味。ときどき「プーッコ・ナイフ」という表記を見かけるが、これでは「頭痛が痛い」とか「危険が危ない」に等しくなる。




Morakniv Classic 2/0。これはスウェーデン王国のMora社製なので「厳密にはpuukko ではない」という考え方もある。しかしまあ、そこは曖昧にしたまま、プーッコ試作の素材として、便利に使わせてもらおう。

このままでも充分に美しいシンプルなハンドル。これはこれで気に入ってしまい、しばらく撫で回すように愛用していた。しかしある雨の夜に見た夢のせいで気が変わり、カスタマイズすることにした。




いくつかのアイディア、採用するマテリアルのプラン、仕上がりの風貌などが脳内に交錯する。でも根幹には少し太めのハンドルに、という方向が決まっていた。



オリジナルのハンドルを破壊する。ブレードを養生してバイスに固定し、鑿(のみ)を打ち込んだ。すると、想像よりしっかりしたタングが現れた。ハンドル内部にエポキシの痕跡は見られなかった。




これがMorakniv Classic 2/0の解剖図。スケールを写し込んでおけば誰かの役に立ったかもしれない。




新たなハンドルには、パリサンダと欅の芯材。1ミリのブラスを何枚か挟もうとも考えたが、華麗なデザインになってしまいそう。ブラスは両端に留め、どちらかと言えば素朴で武骨な姿に仕上げよう。




グルーイング中。すぐとなりに転がっている欅のブロックには木目が見える。一方のハンドルは、細かい年輪のラインが入り組んだように緻密な紋様を見せている。このあとの削りで、わたしはこのマテリアルの硬さを知る。



ディスクグラインダーでの削り作業の様子。#240でシェイピングするも、摩擦熱で黒焦げになっている。高速回転で削るには、硬すぎるのだ。



粗削りの途中にて。同じ材料でファイアスタータを製作している。これはつい先頃、師匠のスズキサトル先生から下賜されたものだ。「このマグネシウム棒を、メタルマッチとして仕立てて見よ」という命題である。

さてMoraとメタルマッチ、これから手作業の研磨を行うのだが、この焦げを残してみようかとも考えている。しかしものごとは、目論見通りには進まない。



ディスクグラインダーで#400の削りを施し、大まかな整形を終えたのち、続けて布ヤスリ#400を帯状に擦り掛けてざっと焦げを落とした。どこまで焦げを落とそう?

夜、呑みながら#1000の耐水ペーパーで擦っていると、なにやら囁きのようなシグナルを受け取った。飲み過ぎたか、ついに酒毒が脳に廻ったか。いや違う、左の掌に乗せられた欅ハンドルのプーッコが、きゅうきゅう鳴いていた。



そこには、憧れのカーリ・パーチなどのスペシアルなハンドル材が見せる、いや、それらを遥かに凌駕した「杢目」が鮮やかに現れていた。試みにアマニ油を垂らしひと拭きしてみる。

もう、絶景だった。

北極圏の空に輝くオーロラのようにも見てとれる。あるいは荒野の片隅での焚き火の炎。あるいは春の渓を流れ下る雪融け水の奔流。いずれにしても、ブッシュクラフトナイフのハンドルを飾るにふさわしいテクスチャである。

はじめに想像していた素朴で武骨な風貌とは、少し乖離してしまったようだ。素材としての欅を手にしたときに、何の心構えも覚悟も定まっていなかったわたしの不覚である。ぐぬぬ、欅の材の奥に鎮まっておられたクラフトの神様から、きつい喝を頂いた瞬間だった。






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