ある春の日曜日の、わたしの朝食。スパゲッティ250gを茹で、レトルトのミートソースを掛けてある。若い頃ならば300gをぺろりといけたが、ミドルの胃袋に朝から300はきつくなってきた。弁(わきま)える、という言葉があるが、まさにその通り。四十にして惑わず、五十にして天命を知る、六十にして耳順う。いや本稿はロールキャベツである。
週末、娘に問う。「ロールキャベツ、食べるかい?」
「え、いいの?」
娘が食べたいとせがむと、父は山に行くのを取り止めてでも厨房に立つ。君の血となり肉となるものだ、父さんが心を込めて作ろう。
芯をくり抜いた春キャベツにラップを掛け、電子レンジに放り込む。200wで10分、500wで4分。葉っぱが柔らかくなると剥がしやすくなるのだ。
これがおやじの手料理のいやらしい部分だ。
鶏ひき肉を使うくせに、ささみを用意している。筋を除いて薄く塩胡椒を振りぶつ切りにしたあと、あんに混ぜるのだ。
ほら、こうして。単調になりかねないひき肉の食感に、ぶりっとした「肉」の歯ごたえ、味わいを挟み込むギミック。もも肉でも構わぬ。早茹ででないマカロニでも良い。
昼を過ぎた。二階でせがれがアイルランド音楽をならしているので、これを言い訳にブッシュミルズを呷ろう。
鍋にロールしたロールキャベツの前身を置いていく。立てる、というメソッドがあるらしいが未だ試していない。未知なる経験に一歩を踏み出せないでいるミドルの情けなさ。
煮込んでいる時間にブレードと遊ぶ。ついに手にしてしまった、YP Taontaの手鍛造によるブランクである。鎚目が残る、鍛冶職人の手の匂いがそのまま打ち鍛えられたようなブレード。タオンタおじいさんは高齢で鍛冶場に入ることも減ったような知らせも聞いた。これは若きお孫さんのたくましい腕が鍛えた品物であろうか。いずれにせよYPの刻印がある以上、タオンタおじいさんが認めたブレード、真のプーッコブレードであることは間違いない。フィンランドのたから、この惑星の至宝である。時間をかけてベベル面をミラーフィニッシュに近いところまで磨いてある。
手前ふたつがラウリのファクトリーメイドのブレード。切れ味はすばらしい。が、正直、タオンタじいさんの鍛冶場で鍛えられたブレードは、鳥肌が立つような、凄絶な切れ味を見せてくれた。
わたしのロールキャベツは、タオンタ鍛冶のブレードのような美しさと奥深さを備えていただろうか。
いや、いまひとつ、深み高みに届かなかったようだ。こどもたちは喜んで平らげてくれたが、ぐぬぬぬ、いまだ修行の道のり半ばと、ミドルは唇をかんだ。
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