2019年5月1日水曜日

二本のモーラ・クラシック

不注意から、指を痛めた。


治るまでのことを考えた結果、わたしには二本の包丁を新調する必要が生じた。しばらくは、こどもたちに料理を作ってあげられない。一日も早く、親父の手料理を、彼らが好きなご馳走を作ってあげられるよう、傷を治さなくてはならない。



少し違う。傷はすぐに治るだろう。問題なのは、粉々に砕けてしまった骨たちがくっつき、傷ついた組織が修復され、続いて癒着してしまった腱と筋肉が自由な動きを取り戻すプロセスのことだ。過去の経験から、骨折の辛さはリハビリの痛みに尽きると知っている。だからこそ早期に、この苦痛を軽々と乗り越えて手指の機能を回復するために、具体的なゴールイメージを描かなくてはならない。そのためには、二本の新しい包丁、あるいはナイフが必要なのだ。この二本を操って、料理を楽しむのだ。

そうなのだ。ある春の日に怪我を負い、大きな病院の救急外来で手術を受けた。上手くいかずに翌日に再手術となった。醒めかけた麻酔が連れてきた激痛と灼熱を薄れさせようと、わたしは深夜の病室で二本のモーラナイフ(Morakniv, Mora Knife )を買い求めた。



元号が改まった雨の日に、二本のモーラナイフが届いた。Morakniv classic 1とclassic 2/0である。以前から写真でよく眺めていたが、わたしはキノコを連想した。




違うこれじゃない。浮き出した白い模様のない、あかくてツルッとしたやつだ。そうタマゴタケ。




スエーデン王国から来た真っ赤なタマゴタケ。Morakniv Classic 2/0(左) と Morakniv Classic 1(右)。ブレードはどちらもハイカーボンスチール。鋼材メーカーの表記や情報は見当たらないが、高炉屋がいくつもあるお国柄である、それなりの配合と組成のブレードを使用しているはずだ。早速箱出しでテストすると、切れる。グラインドはベタなスカンジでセカンダリベベルは施されていない。スカンジナビアから来たナイフはこれで良いのだ。

これが、一本20ドルもしない。Youtube にあげられていた製造元の動画を見ればその理由がわかる。ブレードの製造工程でコイルからプレス打ち抜きを行っている。続いてグラインドもロボットが行っていた。






並べると、ベベルの高さが異なることに気づく。右のClassic  1はブレード厚が2.0ミリ、ベベルが狭い。左のClassic 2/0はブレード厚2.5と板厚がある分、高い位置から削って刃を出している。エッジの角度へのこだわりか。

隣国フィンランドでは、伝統的なpuukkoの定義でベベルの削り出しのラインがブレードの真ん中より上になくてはならないようだ。そうするとMorakniv Classic は厳密にはpuukkoではなくなる。こうした事柄も、わたしには理解しなくてはならない課題だ。



小さいながらブレード厚が2.5ミリのClassic 2/0。こいつはいっそコンベックスに研ぎ直して、タフな肉切り包丁とするのはいかがだろう。肉切りといっても、鯛の頭を断ち割ったり、鶏の脚から肉を剥がしたり、わたしが大好きな牛スジの下ごしらえである。ジャガイモの芽を抉ったり南瓜の皮剥きにも働いてくれそうである。守備範囲は広く取りながらあくまでタフに、普段は鯵切り包丁を使うような場面を想定している。




2/0を角度を変えて。タングはラットテイルながらハンドルエンドまで貫通している。一方の1はハーフタングである。





ブレード厚が2.0のClassic 1は、スカンジのままセカンダリベベルなし、でもストロッピングは念入りに行ってペティナイフとして使う予定である。クレバーシャープと書けば良いのか、野菜のカット、刺身を引く時、あるいはスライスに活躍してくれるだろう。タフな使い方は避けて、切れ味を求めていこう。




現物が届くまでは、グラインドを調整するだけでなくハンドルも付け替えて、などと考えていた。ところが、手に取って眺めていると、道具としての可愛らしさ、頼もしさが沸き上がってくる。ハンドルはタマゴタケのまま、このままにしておこう。これはこれで、わたしのプーッコ(もどき)の入り口として大切にしよう。そして、次は隣国のフィンランドからブレードをこっそり仕入れて、正真正銘のプーッコをオリジナルハンドルで作るのだ。部材には白樺だけでなく信州の林檎の樹を使ってみたい。根本や太い幹に生じるこぶの中から、どんな杢目が現れるだろう。林檎を材木として扱うケースは稀である。フロムナガーノ、わたしは問いかけてみよう。










0 件のコメント:

コメントを投稿